アンテナ設置とリーダライタの電波設定の重要さ
UHF帯RFIDシステムで一般によく使われているのは、いわゆる電池を搭載していない「パッシブタイプICタグ」です。このとき必要な要素は以下のようになります。
- ICタグ(RFタグ、非接触ICタグ)
- アンテナ
- リーダライタ
- 上記をまとめるシステム
今回はUHF帯RFIDシステムの読み取りの成否に大きく影響するこれらの要素についてご説明します。
アンテナとICタグの向き
ICタグとアンテナの間は電波で通信を行います。もちろんリーダライタにつながるアンテナのみならず、ICタグ側にも小さなアンテナを備えています。
UHFの電波の偏波には大きく「円偏波」と「直線偏波」の2種類が多く使われており、ICタグの方向によって、読み取りやすさが異なります。
図のように、円偏波のほうが、より様々の向きのICタグの読み取りに対応しています。
直線偏波は使い道がないようにも見えますが、特定の向きなら読むけど、そうでないときは読まないという性質を活用して、ICタグを一定方向にそろったような対象の読み取りで直線偏波のアンテナをを使って、読みたくないICタグの読み取りリスクを減らすということができます。
マルチパス現象(Field hole , ヌルポイント)
UHF帯RFIDの電波では、空間のポイントに対して、直接そこに届く電波(直接波)と、周辺物に反射してそのポイントにとどく電波(反射波)の合成により、電波を強めあったり弱めあったりする現象が発生します。これをマルチパス現象とよび、たまたま弱め合ったポイントを「Field hole」「ヌルポイント(ヌル点)」といいます。
以下はイメージですが、アンテナの近方、遠方で壁・床・物に電波が反射して、たまたま、電波強めあって、遠方でも検知できてしまうポイント、近方なのに、たまたま弱めあって検知できないポイントなどができてしまいます。
移動と静止
アンテナから、離れると、読み取りできる領域にむらがでてきます。
たとえば、静止して読み取りする場合、たまたま、電波のむらで弱いところに対象ICタグが存在していた場合、うまく読み取りが検知できないことになります。
ICタグが移動することでむらがある検知エリアのあたりでも、うまく電波のむらで、電波が強いポイントに移動して、うまく読み取りできることがあります。
※書き込みは、静止させて実行することを強くお勧めします。移動させると、前述のように、たまたま電波が弱いポイントで書き込みを実行しようとしまい、うまく書き込みできないことがあるためです。またICタグに書きこむ前に、先に対象ICタグの読み取りをおこなって、電波強度(RSSI)が十分高いことを確認してから書き込みを実行すると弱いポイントで書き込みしてしまうことを防げます。
電波の反射とアンテナ設置
電波が反射してマルチパスができる以外に、空中に放射された電波は、電波圏内の人やモノに反射してしまって、おもわぬところにあるICタグを読んでしまうことがあります。
これを対処するためには以下のような方法があります。
- 電波の出力を弱くする
- アンテナの設置位置・向きを変える
- 電波を遮蔽する
1台のアンテナでは、読み取りしたいポイントに、死角ができてしまうことがありますので、2台以上で死角を無くすように設置してやることで改善することができます。 左図:人で電波の死角ができてしまうパターン 右図:死角を別なアンテナでフォローするパターン |
アンテナの設置 ~VESAの活用~
アンテナは板状のものが多く、背面や、四隅の取り付け穴で壁面やポールなどに固定します。
背面や、四隅の取り付けネジ穴がVESA規格の穴位置に対応しているものも多く、一般のモニター用VESAアームなど活用して、取り付けることができます。
VESA規格の金具には2軸や3軸で方向が変えられるものが多く販売されており、角度や方向を変えての読み取り調整に役立ちます。
リーダライタのチャネル(周波数)の設定
UHF帯RFIDシステムは電波をつかいますが、日本のUHF帯RFIDシステムには、大きくわけて3つの分類があります。
特定小電力無線局 | 登録局 (構内無線局・陸上移動局) | 免許局 (構内無線局・陸上移動局) | |
周波数 | 916.8MHz、918.0MHz、919.2MHz 及び920.4MHz以上 923.4MHz以下のうち920.4MHzに200KHz の整数倍を加えたもの | 916.8MHz 918.0MHz 919.2MHz 920.4MHz 920.6MHz 920.8MHz | 916.8MHz 918.0MHz 919.2MHz 920.4MHz |
空中線電力 | 250mW以下 | 1W以下 | ← |
空中線(アンテナ)利得 | 3dBi以下 | 6dBi以下 | ← |
キャリアセンス(LBT) | あり | あり | なし |
ユーザからの申請・電波利用料 | 不要 | 必要 | 必要 |
UHF帯RFIDのリーダライタ機器は、メーカーのほうで技術基準適合証明あるいは工事設計認証を取得して、販売しています。ユーザは、「特定小電力無線局」機器の場合は、総務省への申請等は不要です。「構内無線局・陸上移動局」の機器の場合は、総務省への申請が必要になります。
ユーザはメーカーが技術基準適合証明あるいは工事設計認証を取得した周波数でリーダライタ機器を活用できます。多くの機器で上記の周波数で取得していますので(たまに上表の全部の周波数を出すことができない機器があります)、ソフトウエア的な設定で周波数を設定して使用します。一つの機器が複数の周波数で出力する機能をもっているのは、近くで同じ周波数の電波でリーダライタ機器を活用すると電波の「干渉」が発生するため、これを避けるためです。
キャリアセンス(LBT)というのは、複数のリーダライタ機器の電波干渉を減少させるために取り入れられた機能で、ときどき電波をだすのを休止したり、他の機器が電波を出していないかを確認してから電波を出力する機能です。これで限りある電波の周波数を複数の機器でわけあって使用するというルールになっています。
「特定小電力無線局 920MHz 帯移動体識別用無線設備」のチャネルプラン(ARIB STD-T106より抜粋)
中心周波数(MHz) | チャネル番号 | 構内無線局 | 特定小電力無線局 | |
免許局 | 登録局 | |||
1W | 1W | 250mW | ||
916.0 | 1 | |||
916.2 | 2 | |||
916.4 | 3 | |||
916.6 | 4 | |||
916.8 | 5 | ◎ | ○ | ○ |
917.0 | 6 | |||
917.2 | 7 | |||
917.4 | 8 | |||
917.6 | 9 | |||
917.8 | 10 | |||
918.0 | 11 | ◎ | ○ | ○ |
918.2 | 12 | |||
918.4 | 13 | |||
918.6 | 14 | |||
918.8 | 15 | |||
919.0 | 16 | |||
919.2 | 17 | ◎ | ○ | ○ |
919.4 | 18 | |||
919.6 | 19 | |||
919.8 | 20 | |||
920.0 | 21 | |||
920.2 | 22 | |||
920.4 | 23 | △ | ◎ | ○ |
920.6 | 24 | ◎ | ○ | |
920.8 | 25 | ◎ | ○ | |
921.0 | 26 | ◎ | ||
921.2 | 27 | ◎ | ||
921.4 | 28 | ◎ | ||
921.6 | 29 | ◎ | ||
921.8 | 30 | ◎ | ||
922.0 | 31 | ◎ | ||
922.2 | 32 | ◎ |
空白 | 使用してはいけないチャネル |
△ | 他システムへの影響を考慮し、極力使用しないチャネル |
◎ | 優先して使用することが可能なチャンネル |
○ | 構内無線局からの干渉がある前提で使用可能なチャネル |
※実際にリーダライタが使用できるチャネルは各リーダライタ毎に異なります。上表で印のついているチャネルで電波が出力できるかどうかは各リーダライタの仕様をご確認ください。
リーダライタが1台であればチャネルはどれを選んでもあまり問題はありませんが、2台以上設置するのであれば、ある程度、チャネルを離して設定して設置することをお勧めします。
特に、特定小電力の機器の場合、近いチャネルの場合、電波干渉やキャリアセンス(LBT)等で読み取りにかなりの悪影響がでます。電波の出力の休止や、キャリアセンス(LBT)で周波数帯を譲り合って使うわけですが、台数が増えれば譲り合いにも限界がきます。アンテナの向きや電波出力の強さなどで一概には言えませんが、連続して電波を出力するような使い方を十数台の特定小電力機器がしてしまうと、ずいぶんと読み取りが悪くなった、読めたり読めなかったりだ、場合によっては全く読めないと体感されるぐらい悪くなります。
特に、キャリアセンス(LBT)を行う特定小電力機器・登録局機器と、行わない免許局機器が混在する状況の場合、前者が大きく影響をうけます。
UHF帯RFID機器におけるLBTとは
LBTとは、「Listen Before Talk」の頭文字をとったもので、日本のUHF帯RFIDリーダライタにおいて、電波干渉を回避するためにつかわれている方法です。時間的な分離を行います。「特定小電力機器」と「構内無線局/陸上移動局の登録局機器」で使われています。
リーダーが電波を出す前に、その使用したいチャネル(周波数)で他の機器が使っていないか(その周波数で受信した電波が既定値以下かどうか)を確かめてから、電波を出力します。キャリアセンスともいわれます。「特定小電力機器」と「構内無線局/陸上移動局の登録局機器」で使われています。またリーダーはチャネルをあけるため、一定時間で電波出力の休止を行います。
使用したいチャネルが使用中の場合、空くまで待つか、あるいはチャネルを他のチャネルに変更して使用します。多くのリーダーが同じ空間に存在して稼働している場合「LBT待ち」といわれるようなうまくICタグを読み取ることができないような状況が派生してしまうことがあります。
LBT機能ありの場合のチャネル設定
一部のLBT機能を有する機器のなかには、LBTで電波が出力できないときに、固定のチャネルで待つのではなく、自動的にチャネルを変更する機能が搭載されているものもあります。例えば、弊社の特定小電力機器であるFRU-4025/Plus/MRU-F5025はチャネルを自動的に変更する「LBT SCAN/LBT ALL SCAN」機能を搭載しています。
2台以上のリーダライタ設置時の注意点
以下のようなポイントがあります。
- 近傍に別なリーダライタがある場合、リーダライタのチャネルを可能であれば800KHz分以上離すほうが電波干渉を減少させられます。もしもチャネルに余裕があれば1MHz分以上離したほうがベターです。
- お互いのアンテナの向きを工夫して、向き合わない様、電波の反射で相互に影響が出ない様な向きに調整することをお勧めします。
- 遮蔽(金属板や電波吸収体)などを設置して相互に影響を受けないようにするのも良い方法です。
- センサーなど活用して必要なときだけ電波を出力するようにして、影響を減らすという方法もあります。
また、LBTを行う特定小電力機器・登録局機器は、どうしても電波干渉でうまくいかないことがありますので、すべてをLBTを行わない免許局機器に統一するのも一つの方法です。
2台以上のリーダライタを同時に稼働させると、かなり遠方のICタグを検知してしまうこともあります。多くの場合は使用するチャネルを変更して、リーダライタ相互の使用チャネルを離してやることで問題が解決できます。それ以外に上記のようにアンテナの向きの調整や遮蔽を設置する等のハードウエア的な解決方法もあります。
読み取りしたくないICタグの対策
上記のように電波出力やアンテナ向き調整・遮蔽を設置する等のハードウエア的な方法のほかに、読み取りデータを受信した上位機器(パソコン等)側で、ソフトウエア的・統計的に、RSSI値や、読み取り回数によってノイズとなる検知を除去するという手法があります。
弊社の自律動作型UHF帯リーダライタ「MRU-F5100JP」であれば、上位側でなく、リーダライタ側で、あらかじめRSSI値が指定値以下の読み取りデータや、指定回数以下の場合の読み取りを除去したデータを上位に送信することが可能です。
参考
JAISA(一般社団法人 日本自動認識システム協会)のホームページは役立つ情報が多く掲載されています。参考にしてください。
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