DX推進担当者のための現場改善手法「デザイン思考」とは?

Vol.216 2023年5月号

 デザインというと、見た目の美しさに関するものというイメージを持たれる方が多いと思いますが、「デザイン思考」とは、「見た目のスタイルやセンス」のことではなく、革新的な課題解決にたどり着くための体系的な手法や、それらを実践するための考え方を表します。今回はDX推進を加速させるデザイン思考について紹介します。

デザイン思考とは

 デザイン思考(Design Thinking)は、顧客・ユーザー視点でのアプローチを通してイノベーション(革新的な新しい仕組み・製品)を生み出すために、「観察」や「コラボレーション」、「反復」といった手法を駆使して今まで誰も気づかなかった解決策を発見~実現するための一連のプロセスや考え方を指します。

 デザイン思考を広めたIDEO社は、1991年に設立されたアメリカのデザインコンサルティングファームで、appleの最初のマウスをはじめ、世界中の企業や組織と協力してイノベーティブな製品・サービスの開発を行ってきました。2010年代には、同社のCEOティム・ブラウンやトム・ケリーらの著作が出版されるなどで日本でも注目を集めました。

デザイン思考の重要性とDX推進担当者への意義

 経済産業省が2022年に定めた「DXリテラシー標準」では、企業がDXを推進する上で重要な役割を果たすための「マインドスタンス」として

  1. 変化への適応
  2. コラボレーション
  3. 顧客・ユーザーへの共感
  4. 常識にとらわれない発想
  5. 反復的なアプローチ
  6. 柔軟な意思決定
  7. 事実に基づく判断

といった項目を挙げ、それらを担保するものとしてデザイン思考を定義しています。デザイン思考を取り入れることで、DX推進担当者は企業内の課題解決に向けた具体的なアクションを見つけ出し、実行に移すことができます。

改善を促進する人間中心設計

 デザイン思考の体系化されたプロセスであるHCD(人間中心設計)は5つのステップで構成されます。(図1参照)

  1. 洞察/観察/ 共感( E m p a t h y )
  2. 定義(Define)
  3. 発想(Ideate)
  4. プロトタイプ(Prototype)
  5. 評価(Test)

 特徴的なのは、発散思考と収束思考のステップを反復するということです。発散思考は、自由な発想力を生かしてアイデアや情報を広げることを目指し、収束思考はその中から適切なものを選択し、実現に近づけることを目指します。これらのステップを繰り返すことで、より精度高く具体的な課題解決策にたどり着くことができます。(図2参照)

ダブルタイヤモンド

人間中心設計の手法

 以下、ステップごとに紹介します。

1. 洞察/観察/共感(Empathy)

 現場での対象ユーザーの環境・手順を観察し、対象者のニーズや課題を深く理解することを目的とする、デザイン思考で最も重要なステップです。従来のアンケートや利用者インタビューの不足を補います。

「師匠と弟子」

現場担当者に弟子入りするように、タスク完了までの一連の流れを「初心者」の目で経験します。現場担当者と共に働き、初心者の目で質問をすることで、担当者自身も気づかなかった現場プロセスの隠れた問題点を発見することができます。

「5つのなぜ(5 Whys)」

 同じくインタビュー手法の一つで、問題や課題の根本原因を特定するために、連続して「なぜ」を繰り返して問いかけます。これにより、表面的な問題ではなく、根本的な原因に対処する糸口を見つけ出すことができます。

2.定義(Define)

観察で得られた情報をもとに、問題点を特定し、解決すべき課題を明確化します。

「ジャーニーマップ」

 対象者がタスクを完了するまでの過程や、製品やサービスを利用する過程をビジュアル化したものです。対象者が経験するポイントを明確にし、改善の余地がある部分を特定します。具体的には、ユーザーの目線でタスクの流れを考え、各ステップでの体験を記録し、可視化します。

ジャーニーマップ

3.発想(Ideate)

ここまでに定義された課題を解決するためのアイデアを創出します。

「ブレーンストーミング」

 制約なく自由な発想を重視します。この手法では、参加者が集まり、時間を決めてアイデアを出し合います。具体的には、まずルールを設定し、批判や評価を避けて、どんなアイデアでも歓迎する環境を作ります。次に、一定の時間内でアイデアを出し合い、その後で評価や整理を行います。

4 プロトタイプ(Prototype)
5 評価(Test)

 発想段階で得られたアイデアを具体的な形にし、プロトタイプ(試作品)を作成します。プロトタイプを評価することで得られるフィードバックをもとにさらにプロトタイプを改善したり、さらにさかのぼって問題を再定義をするなど、反復と改良を繰り返すことでよりより最適な解決につなげることができるのです。

「ラピッド(高速)プロトタイプ」

高速プロトタイプ

 手軽に作成・変更できる「質よりスピード重視」の試作を目指します。製品のアイデアを紙や段ボールなど可能な限り手軽な素材で作成し、実際にユーザーに試用してもらい、フィードバックを受け取ります。

アイデアを模索、評価、促進することができれば、どんな形でもよいのがポイントで、システムの使いやすさを確認するために、手書きの画面を使ったり、ジャーニーマップをプロトタイプとして劇のように演じて利用シナリオを改善する手法もあります。

おわりに

 デザイン思考は、ユーザー視点で課題やニーズを捉え、革新的な解決策を見つけるアプローチです。DX推進担当者は、デザイン思考を活用して組織の変革をリードし、イノベーションを実現する役割を果たすことが求められています。是非、デザイン思考を取り入れ、企業内の現場改善にチャレンジしてください。当社は様々な現場改善を自動認識ソリューションでお手伝いしてきました。導入事例は下記リンクからご覧いただけます。自動認識を利用した現場課題の解決をご検討される際は、是非当社にご相談ください!


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