輸血用血液とバーコード~日本赤十字社の取り組み

VOL.046 2009年2月号

医療用医薬品・医療機器へのバーコード表示の標準化がスタートし、業界各社ではそれぞれに取り組みが始まっていますが、医療の現場ではすでにバーコードを利用して、医療過誤の撲滅、安全管理に取り組んでいるところもあります。 今回は日本赤十字社東京都赤十字血液センターにご協力戴き、輸血用血液がどのようにして安全に供給されているのかをレポートします。

日本赤十字社のこと、知っていますか?

街頭などでの献血の呼びかけや災害時の義援金募集等で、ほとんどの人が日本赤十字社の名前を知っています。しかし、日本赤十字社の事業を詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか。

輸血用血液製剤

日本赤十字社は民間の企業ではありません。ルーツは明治維新後の西南戦争時まで遡ります。
1877年に設立された「博愛社」を前身とし、1952年に「日本赤十字社法」という法律に則って新たに認可された特殊法人で、戦争・紛争犠牲者、災害被災者の救援、医療・保健・社会福祉事業などの国内外の赤十字活動を行う団体でもあります。


日本赤十字社の重要な事業の一つが、献血による輸血用血液製剤の製造及び供給で、全国各地の献血ルーム・献血バス等で採血された血液は、各都道府県の 血液センターで輸血用血液製剤(医薬品)に姿を変え、医療機関に供給されています。また季節変動による血液の不足時や災害時に備え、血液の需給調整を担うのも 各血液センターの重要な仕事となっています。

献血された血液はその後…

献血された血液と検査用検体

全国各地にある献血ルームや献血バス。日本では病気やケガの治療に使われる血液はほとんど献血によって賄われています。
献血された血液と検査用検体は血液センターに運ばれ、血液型検査、B型肝炎ウイルスなどの感染症検査、健康管理のサービスのための 生化学検査などが行われます。

また全ての献血者の検査用検体の一部は、輸血後副作用が発生した場合等の調査用として11年間冷凍保管されています。
全血採血(200mL、400mL採血)された血液は、白血球による副作用防止のため白血球除去フィルターを通し、1バッグ中に含まれる白血球数を1×106個以下に低減させます。白血球を除去した血液からは全血製剤、赤血球製剤、血漿製剤が、また成分採血による血小板製剤と、大きく4種類の輸血用血液製剤が製造されます。また、血漿製剤を除く3種類の血液製剤では、更に放射線を照射し混在するリンパ球の機能を不活化 させた放射線照射製剤も作られています。
以前は採血された血液をそのまま輸血用血液とする全血製剤が主流でしたが、現在では患者の負担や副作用を軽減するため、大量出血など全血輸血が必要な場合を除き、患者に必要な血液成分だけを輸血する「成分輸血」が主流となっています。輸血用血液製剤は製剤ごとに保存条件や 有効期間が異なるため、厳密な温度管理と有効期間管理のもと医療機関へ供給することになります。
このような流れを経て供給される輸血用血液製剤ですが、原材料は人の血液です。したがって、輸血用血液製剤は厚生労働省が定める 「特定生物由来製品」に該当します。医療機関における特定生物由来製品の使用記録は20年間の保存が義務づけられているため、トレーサビリティ(追跡)は欠かせないものになっています。

血液製剤とバーコード

献血ルームなどで採血された段階で血液バッグには製造番号とそれに対応するバーコードラベルが貼られます

日本赤十字社も厚生労働省の医療用医薬品に対する新コード表示の通知を受け、全国の血液センターで平成20年8月より新バーコードの表示を開始しました。
献血ルームなどで採血された段階で血液バッグには製造番号とそれに対応するバーコードラベルが貼られます。

血液センターに運ばれた血液バッグごとに、各検査の段階で製造番号に対応する検査結果の情報がコンピュータに記録されます。

また、製造工程ごとに血液バッグのバーコードを読み取って、採血年月日、有効期間、製造番号、 血液型、また、放射線を照射した血液製剤では照射年月日・照射線量等のトレーサビリティ情報を確認、記録していきます。
全国の血液センターではこれらバーコードの読み取りに、当社製の2次元コードスキャナを採用し、日々製造される血液製剤のトレーサビリティの確保をサポートしています。
血液バッグの製剤ラベルにはバーコード(NW-7)とRSS合成シンボルが合計8箇所表示されており、血液センターではこの8箇所を連続で読み取らせています。また製剤ラベルのバーコードが正しく印字されているかどうかのチェックも、2次元ハンドスキャナ「THIR-6000」を使って読み取ることで同時に確認します。
血液バッグに表示されたバーコードは、供給された医療機関の輸血管理システムで処方どおりの血液製剤であるか、また、血液型、有効期限などの確認、登録等、医療過誤の防止に利用されています。昨年から始まった医療用医薬品へのバーコード表示は医療事故防止とトレーサビリティの確保を目的として始められました。
輸血用血液製剤についても、必要な情報を表示したバーコード/RSS合成シンボルラベルの表示と確認により、輸血用血液の安全性向上と、トレーサビリティの 確保に役立っています。
(取材協力:日本赤十字社 東京都赤十字血液センター)